地方自治とその課題

 

 

地方自治の本旨

住民自治と団体自治

地方公共団体

条例の制定

住民の権利

地方公共団体の仕組み

地方自治の問題点=「3割自治」

地方分権と草の根民主主義(地方自治の再評価)

 

 

☆地方自治の本旨☆

 

そもそも民主政治は、民主主義発祥の国であるイギリスにおいて、きわめて限られたせまい地域の住民自らが自主的にルールを定め、自らが身近な問題を解決していくという経験を通して発展してきた。つまり一定の地域の住民(地方住民)は、自らの意思で住民の幸せを(福祉)実現することであるが、これこそが民主主義の原点であり、イギリスの政治家ブライス(1838〜1922)は、このことを主著『近代民主政治』のなかで、「地方自治は、民主主義の源泉であるだけでなく、学校である」と論じ、地方自治の重要性を説いた(フランスのトックビルも同じ言葉を使っている)。

いうまでもなく、地方自治の目標は地域住民の福祉の実現であり、これを実行する機関が地方公共団体なのであるが、大日本帝国憲法は、地方自治に関する規定をおいておらず、明治政府は、府県制・郡制や町村制はしいたものの、中央政府の厳格な指揮監督・命令に服させ、知事も政府(内務省)が任命した(「官選知事」)。

これに対して、民主主義の実現を目指す日本国憲法は、「地方自治」の一章を設け、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨(ほんし)に基いて、法律でこれを定める」(第92条)と規定した。

ここにいう「地方自治の本旨」とは、地方自治の中心的理念であり、その内容は、地方企共団体における行政を地方公共団体の手にゆだね、原則として国(中央政府)の関与を排除して、地域住民の意思に基づいて処理する原則であるが、それには「国からある程度独立した地方公共団体をつくり(「団体自治」)、その地方公共団体を住民の参加と意思にもとづいて運営する(住民自治)こと(「二つに自治」)が必要となる。

換言すれば、「地方自治の本旨」とは、国の政治機構には、権力分立の原則がはたらくのに対して、中央政府と地方公共団体との関係には、地方自治の原則がはたらくということ、すなわち、団体自治と住民自治を合わせた地方自治を、できる限り完全な形で実現しようという考え方であるが、こうした憲法に規定を受けて、地方公共団体の政治を具体的にすすめるため、1947(昭和22)年に地方自治法が制定され、当然のことながらこの二つの自治を原則とする地方自治の制度を取り入れている。

 

☆住民自治と団体自治☆

 

そもそも住民自治は、イギリスやアメリカなどアングロ−サクソン系の国々においては発展してきたもので、地域社会の公的な問題をその地方住民が自らの意思と責任で処理することを内容としている、「自治と分権」を目指す形態である。

これに関して日本国憲法は、住民の権利として、地公共団体の長(首長=都道府県知事や市〔区〕町村長)や議会(県・市〔区〕町村議会)の議員の直接公選制を定め、さらに地方自治法は、種々の住民の直接請求、住民投票、住民訴訟等を定めて、住民自治の原則を具体化している。

これ対して団体自治は、フランスや戦前のドイツなどに代表される大陸系の国々で実行されてきたもので、国から独立した地域団体(地方公共団体)の存在を認める、国家行政から独立して自らの機関で事務を行うことを内容とする、統治や行政の権限を中央に集中しない(地方公共団体を設けて分権をはかる)ものであるが、いわば、「官治・集権」の方向に向いた形態といえる。

 

☆地方公共団体☆

 

さて、地方公共団体は、地域社会に根ざした政治をおこなうために、立法(議決)機関としての議会(都道府県議会と市〔区〕町村議会)と、その議決事項の執行機関である首長(知事・市〔区〕町村長)から構成されている。

住民の直接選挙によって選ばれた議員からなる議会は、一院制をとり、条例の制定・改廃、予算の議決、首長の不信任の議決などの権限を有する

執行機関の首長である知事・市町村長は、住民の直接選挙で選ばれ、地方税の徴収、条例の執行、議案や予算の作成などの事務(自治事務)、国が本来果たすべき役割に関する事務(法定受託手務)などを執行する。

首長には議会が行った条例の制定・改廃や予算の議決に対して異議があるときには、それに対して議会に再議をもとめることができるいわゆる「拒否権」がある一方、議会に首長の「不信任議決権」を認めており、議決がされた場合、首長は辞職するか、または議会を解散することができる(ただし議会が3分の2以上の多数で再議決すると、その条例や予算は議決どおりとなる)構造になっている。これはいわば、大統領制と議院内閣制との折衷的な方式である。

日本における地方公共団体には、都道府県とその下部組織として市町村が置かれ、これらは普通地方公共団体と呼んでいる。この他に、特別区・地方公共団体の組合・財産区・地方開発事業団などの特別地方公共団体があるが、特別区は現在、東京都の23区のみである。

特別区は、市に準じた位置づけで、原則として市に関する規定が適用され、市と同様に、首長(区長)公選、行政事務などが認められている。都と区の関係は、基本的には府県と市町村との関係と同じであり、基礎的地方公共団体として市町村の事務を処理するが、最大の相違は、租税の賦課(ふか)である。すなわち、特別区は市町村民税(住民税)と同一の税目を特別区民税という名で区民に課すことができるが、それは個人(各地方公共団体に住所を有する住民)に限定され、法人(各地方公共団体に住所を有する事務所または事業所)に対するものについては、都が法人に賦課する道府県民税(住民税)と併せて都民税として課税することにしていることである(地方税法734条2項・736条3項)。それは、23区の均衡な財政の維持に主たる目的がある(住民税には、現在都道府県の住民税としての都道府県県民税と特別区を含む市町村の住民税としての特別区民税を含む市町村民税とがある)。

 

☆条例の制定☆

 

地方公共団体の議会が制定し、その地方公共団体(地域)だけに適用される法形式である条例は、住民自治実現のための不可欠の法的手段である。原理的には、地方自治(地方公共団体)は包括的な自治立法権をもっているといえるが、他方、地方公共団体は主権的団体ではなく、主権国家の領土の一部である部分的な自治(統治)権を与えられた地域(地方)団体にすぎないところから、その条例制定の範囲は当然に、国の立法により種々の制約を受けることになる。憲法が条例制定権につき「法律の範囲内で」(第94条)と規定し、さらに地方自治法が「法令に違反しない限りにおいて」(第14条)と規定するのは、この趣旨を示すものである。

しかし、「公害防止条例」などでは、国の法令より厳しい条件を条例に設ける、いわゆる「上乗(の)せ条例」が制定され問題となったが、大気汚染防止法や水質汚濁防止法では、「上乗せ」や「横だし」規制ができるようになった(大気汚染防止法4・32条、水質汚濁防止法3・29条)。

なお、上乗せ条例が許されるかどうかは、規制の対象とされる事柄の性質や法律の規定の方法等を考慮して個別に判断されなければならないとされている。

 

住民の権利☆

 

地方自治の本旨に則り、地方公共団体の組織運営に住民の意向が反映するように日本国憲法は、地方議会の議員だけでなく、行政を執行する首長(知事・市町村長)も住民の選挙によるとしているが(第93条)、これは大統領制に近い形の運用方法で、かつ二元代表制を意味する。

このほか地方自治の制度を具体的に定めている地方自治法は、住民が政治に参加しやすいような地方自治だけに見られるシステムを設けている。それが、住民の直接参加方式であり、それは、地方行政(政治)に住民が首長や議員を通して間接的に参加する代表(間接)民主制を原則としながらも、例外的にそれを補う(補完する)手法として地方自治法が採用した直接民主制である。

第1は、住民が一定の手続きに従って、議会の解散、首長および議員の解職を請求するリコール制度と条例の制定・改廃を請求することができる制度(イニシアティブ)である(直接請求権)。

第2は、地方公共団体の事務執行(公金の使途)に関しての住民監査請求や住民訴訟を提起できる制度である。

さらには、国が特定の地方を対象にした法律(地方特別法)を制定するとき(たとえば、広島平和記念都市建設法や首都建設法)にはその地域住民の合意をえるための住民投票(レファレンダムの一種)を経なければならないことがあげられる(憲法第95条)。

このうち住民監査請求とは、地方公共団体の違法な公金の支出がある場合、監査委員に監査を求め、是正や損害の補償を求めることができる制度であり、住民訴訟とは、住民監査請求をより確実にするために設けられた制度で、監査委員の決定に不服な場合、行為を取り消し、損害賠償等を求めて地方裁判所に訴えを起こすことができるものであるが、この二つの住民の権利は、直接請求権とは次の諸点で大きな違いがある。

 @ 選挙権の有無にかかわらず、すべての住民に請求権が認められ、1人でも請求できる。

 A 請求の対象事項が財政・会計上の不正行為に限定されている。

 B 請求しても監査委員や職員の措置に不満な場合は、裁判所に訴えてその効果を確定させる。

なお、一部の地方公共団体で導入されている市民オンブズマン制度も住民の権利保護に有効な方策である。

 

☆地方公共団体の仕組み☆

 

 

☆地方自治の問題点=「3割自治」☆

 

しかしながら、憲法上の地方自治の原則にもかかわらず、国(中央政府)には中央統制の戦前以来の伝統が強く残っていて、その権限と権限の基盤となる金(財源)を握り締め、地方公共団体(自治体)に委譲しようとしなかった。それゆえ地方公共団体は、自主財源となる地方税収入が総収入の3割〜4割程度に過ぎず、残りも6割〜7割を、地方公共団体間の財政力の格差(不均衡)を是正し、適正な行政ができることを目的とした国から配分される地方交付税交付金(所得税・法人税・酒税の国税3税と消費税・タバコ税が当てられる)や特定事業の経費の一部を国が負担する国庫支出金(補助金)などに依存しているのが現状である。これは、地方行政が国の政策に大きな影響を受けることを意味するが、それは財政基盤が弱い自治体ほど強くなる。

また、地方公共団体の事務内容(仕事)も、国が知事や市町村長を国の下部機関とみなして事務を代行させる機関委任事務が全体の大半をしめ、地方公共団体の本来の仕事や役割が制約されていた。

そうした状況下は「3割自治」とのキーワードで表現された。地方公共団体は、租税総額に占める国税と地方税の割合が「3対7」であることからくるその財政的基盤とも相まって、本来自分たちが行わなければならない固有の仕事のわずか「3割」しかをせず、あとの多くは、中央政府の仕事の下請けをしているのであるということである。

 

☆地方分権と草の根民主主義(地方自治の再評価)☆

 

地方自治の確立はとりもなおさず、地方分権がなされるかどうかにかかっていることから、日本国憲法制定による地方自治制度の発足以来、さまざまな場で議論されてきた。しかし、地方分権が国(中央政府=中央省庁)の権限と財源の委譲直再結し、必然的に中央官庁の再編成につながるところから実現には大きな抵抗があり、なかなか進まなかった。

それが本格化したのは、1980年代後半から始まった国の行政改革に関する議論からである。つまり、行政改革の一環として地方への権限委譲が論議され、93年に衆参両院が「地方分権の推進決議」をしてからのことである。

その後、95年に地方分権推進法が定められ、それに基づいて政府に設置された地方分権推進委員会の答申にそって、99年には地方分権一括法が制定され、これにより、地方自治の本旨に反するとの批判があった機関委任事務や国の包括的な指揮監督権が廃止されたことから日本の地方自治は再構築される機運が出てきたといえるのである(今後の課題は、財源の再配分となる)。

 他方、地方企共団体の側にも、事務処理能力の強化や主体的・効率的に事務・事業を推進する独自のアイデアや創意工夫といった意識改革が求められる。それは、これまで、国の指示や指導に従って事務執行しておればよく、独自の考えを求められなかった構造からの脱却であり、公僕意識(サービス意識)の再確認である。地方自治の運営で一番重要な課題が、たとえば、老人福祉問題を解決するためには、老人が住む地域で、地域ボランティア、地域福祉団体、地方公共団体が協力しあうことが不可欠な条件となる等、地方の特色や独自性を踏まえたきめ細かな住民対応の視点にたった運営である。その原点は、地方公共団体の個々の職員が、「お上」意識からの転換し、(住民に対する)サービス業に従事しているとの意識を持つことである

 そうした中で、地方公共団体がその規模を拡大することで行政サービスを高度化し、財政基盤を確立しようとする流れが加速している。市町村合併(平成の大合併)である。また複数の市町村が国や都道府県から権限・事務の委任を受け、広域的・総合的な計画にもとづく行政をめざす広域連合を推進する動きもある。

肝心な視点は、住民ひとりひとりが「お上」意識から脱却して上で、地方自治の主人公(タックスペイヤー=納税者)であるという自覚をもち、主体的に政治に参加していく「革の根民主主義」(1960年代後半からの、公害や環境破壊問題、消費者保護問題、保育所や学校建設など地域における具体的な問題を対象とした問題で、地方公共団体の新たな取組みを要求する市民運動の展開が、それまでの国(中央政府)の政策に追従するような政治に一定の変革をもたらした)のような姿勢と、それを支える体制の確立である。

これこそが、21世紀の地方自治の最大の課題となる。

 

 

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