ジャン=ジャック・ルソー

 

 

Jean-Jacques Rousseau

1712〜1778

 

18世紀フランスを代表する思想家、啓蒙家、小説家、音楽家。

 

「人は生れながら自由で、しかもいたるところで鎖に縛られている」

 

――「主権は人民にあり、政府は権力を委任された機関に過ぎない」と述べ、フランス革命の精神的支柱として、その後の民主政治に大きな影響力を与えた(人民主権論を展開、革命の約30年前に出版された)『社会契約論』冒頭の言葉――

 

 1712年6月28日、時計職人のフランス系スイス人の子としてジュネーブ生まれるが、誕生と同時に母は死亡する。

 

1727年、自立の道を求め、ジュネーブを出奔しゅっぽん=姿をくらますこと)、さまざまな仕事を試みるも、ことごとく失敗、しかしこの間の多くの経験に基づいた自然科学、教育、音楽、演劇など多岐にわたる論文を残す(音楽の仕事は一生続けられるが、その代表的な作品が、1752年フォンテンブロー宮殿において、ルイ15世とポンパドゥール夫人の前で上演された『村の占い師』である)。

 

中でもルソーの名前を有名にしたのが、パリの南東方ブルゴーニュの中心都市ディジョンのアカデミー懸賞論文募集に入賞した1750年執筆の「学問、芸術、技術の進歩は人間を堕落させ不幸にする」という『学問芸術論』であった。その5年前、1768年に結婚するテレーズ・ルバスール(1721〜1801)と知り合い、同棲(どうせい)を始め、5人の子供をもうける。

 

その後パリに移住、『演劇に関するダランベール氏への手紙』(1758)、『新エロイーズ』(1761)、『エミール』(1762)等の歴史的名著を執筆する。

 

さてルソーは、不平等を基盤とする当時の社会とそこでの人間のあり方を告発した『人間不平等起源論』に続いて、フランス革命から現代までのありとあらゆる革命に影響力を及ぼし続けている、「人間の平等を基盤にした社会をどのようにして創出する」かについて論じた『社会契約論』を1762年に発刊するが、同書は、パリばかりでなくスイスのジュネーブなどでも、社会の秩序を乱し、キリスト教の教えを破壊するという理由で禁書(きんしょ=書籍の出版・販売やそれを読んだりすることを国家が禁止すること)処分を受ける。その上、ルソー自身にも逮捕状が出されため、逃亡者としてスイス、イギリス、フランスと各地をさまよい、放浪の生活を送ることを余儀なくされる。

 

その後、『告白』(1770年)、さらに自伝的作品『ルソー、ジャン・ジャックを裁く―対話』(1772〜1776)を書きあげ、1778年7月2日パリ近郊のオアーズ・エルムノンビルで波乱に富んだ66歳の生涯を閉じる。

 

『社会契約論』のルソーの思想は、社会の「すべての不平等の除去」にあった。その根幹は、「人間の自然状態は、家も家財も家族もなく、誰にも干渉されいで一人で孤立して生きる」自然状態を前提に、「その中から生ずる障害を除去する必要から、人々の協力関係が生まれ、自然に家族や国家などの社会が発生、社会的人間へと移行した」という、人間そのものの歴史観にあった。

 

ルソーは、自然状態が当時のヨーロッパで「弱肉強食の状態」と考えられていたことに対して「自由で平等な状態」と思考したうえで、社会に「不平等が発生した」のは、本来、「自由・平等だった自然状態」から「相互関係と関与・介入の中で生きるようになる社会状態」に移行した時点であり、ここで人間は、お互いの能力が比較され、その結果、「支配と服従」といった「不自由かつ不平等」の誤った歴史が誕生したと主張した。

 

つまりルソーは、こうした自然状態から社会状態への移行は、「自然の現象」ではなく、「人間の意思」によるもので、その意思とは「契約」であり、その基礎は「自由・平等」という人間の生存にとって必要不可欠な(最も大切な)究極の価値を前提とするものであると理解する。

 

そして社会は、「自由・平等」という人間の生存にとって重要な究極の価値を前提とする全員の約束、いいかえれば「契約」によって創設されたのだから、全員が社会の構成員(契約の当事者)であり、社会の全体である国家もまた、社会の構成員全員からなり、それらの人々全員が主権者となる。この主権の象徴が、「自由・平等」という絶対的価値の一般意思であり、その担い手は、決して王、ましてや少数の貴族ではなく、国家の構成員全員となるとの論理を展開、その上で、主権を維持していくために、全員による定期的な集会の開催が不可欠となり、さらに政治への常時参加が求められると、ルソーは展開する。

 

すなわちルソーは、構成員全員が政治に常時参加によるシステムの実現こそが、社会の「不平等」を除去する唯一道であるという結論が導き出したのである。

 

ルソーによって初めて樹立された民主主義の本質である『自由と平等』に立脚する「統治者(治者)と被統治者(被治者)の同一性」は、ルソーの没10年後の1789年8月26日にフランス国民議会が議決した「人と市民の権利の宣言(フランス人権宣言)によって実現される。

 

当然のことながら、ルソーの影響は日本にも及んでいる。『社会契約論』は、明治維新後、中江兆民によって『民約論』として翻訳され、自由民権運動に鼓舞(こぶ=励まして勢いづけること。奮い立たすこと)し、『告白録』は、自然主義の文学者島崎藤村など大きな影響力をあたえ、さらに『エミール』は教育界に多大な貢献をしたのである。

 

ルソーの墓所は革命後、国民議会によってフランスの偉人たちを祀る墓地として利用されることが決定された、聖ジュヌヴィエーヴの丘に位置する幅110メートル、奥行き84メートルのギリシア十字の形をした新古典主義のコリント式の円柱を持つ建造物パンテオン(サント・ジュヌヴィエーヴ教会)で、ここには、ボルテールやユゴー、そしてゾラらが眠る。現在は無宗教の施設になっている。

 

 

ルソーは、イギリス議会制について以下のように批判し、主権者人民の直接参加による直接民主制を主張した。

 

「イギリス人は、自由だとおもっているが、それは大きな間違いである。彼らが自由なのは、議員を選挙する間だけで、議員が選ばれるや否や、イギリス人は奴隷となり、無に帰してしまう」

 

 

参考文献

1.         エミ―ル [世界教育宝典] ルソ―/著 玉川大学出版部 (1965.8)

2.         エミール () [岩波文庫] ルソー/著/今野一雄/訳 岩波書店 (1962.5)

3.         エミール () [岩波文庫] ルソー/著/今野一雄/訳 岩波書店 (1964.7)

4.         キリスト教思想 [文庫クセジュ] エルヴェ・ルソ―/著 白水社 (1975.5)

5.         国際公法 () ルソ―/著 柳原書店 (1968.11)

6.         告白 () [岩波文庫] ルソー/著//桑原武夫/訳 岩波書店 (1965.3)

7.         告白 () [岩波文庫] ルソー/著//桑原武夫/訳 岩波書店 (1965.7)

8.         告白 () [岩波文庫] ルソー/著//桑原武夫/訳 岩波書店 (1966.5)

9.         孤独な散歩者の夢想 [岩波文庫] ルソー/著//今野一雄/訳 岩波書店 (1960.2)

10.      社会契約論 [岩波文庫] ルソー/著//桑原武夫,前川貞次郎/訳 岩波書店 (1954.12)

11.      社会契約論 [中公文庫] ルソー/著 中央公論社 (1974.12)

12.      社会契約論 人間不平等起源論 [イデー選書] ルソー/著/作田啓一,原好男/訳 白水社 (1991.1)

13.      政治経済論 [岩波文庫] ルソー/著/河野健二/訳 岩波書店 (1951.9)

14.      世界文学大系 (17) <ルソ―> 筑摩書房 (1964.4)

15.      速度の歴史 [文庫クセジュ] ピエール・ルソー/著//金沢秀夫,遠藤真二/訳 白水社 (1956.10)

16.      筑摩世界文学大系 (22) <ルソ―> 筑摩書房 (1973.1)

17.      人間不平等起原論 [岩波文庫] ジャン・ジャック・ルソー/著 岩波書店 (1933.10)

18.      ルソ―全集 (1巻〜第14) ジャン=ジャック・ルソー/[] 白水社 (1979)

 

 

 

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