大崎事件(鹿児島)
(えん罪)大崎事件の鹿児島地裁の再審開始決定(02年3月26日)覆る(05年1月31日最高裁決定)。

鹿児島地裁前 冤罪被害者原口さん(02・3・26)
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事件発生からすでに22年(02年現在)、鹿児島県大崎町井俣の現場周辺には当時のことを詳しく知る人は少ない。確定判決で犯行が行われたとされた家屋はすでに取り壊され、朽ちた小屋と荒れた土地が残るだけである。 |
☆ 1979(昭和54)年10月、鹿児島県曾於郡大崎町井俣で農業の中村邦夫さん(当時42歳)の死体が自宅牛小屋の堆肥の中から発見された。警察は、被害者の兄嫁である原口アヤ子さん(02年3月現在74歳)=鹿児島県大崎町永吉=と邦夫さんのおいの中村善則さん(故人)、邦夫さんの兄2人(いずれも故人)ら近親者4人を殺人と死体遺棄で逮捕した。
原口さんは終始一貫否認したが、81(昭和56)年3月鹿児島地裁は、「頸椎(けいつい)前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」とする城哲男鹿児島大医学部教授(当時)の鑑定書と、共犯者とされた原口さんの夫ら3人の殺害・死体遺棄を実行したとする自白を根拠に、「原口さんと兄2人が殺害。善則さんも死体遺棄に加わった」として全員に実刑を宣告、原口さんを除く3人が服役した。主犯格とされた原口さんは最高裁まで争ったが、81年に懲役10年が確定した。
☆ 原口さんは獄中からも無罪を訴え続け、服役後(出所後)の95(平成3)年4月に、また死体遺棄罪で懲役1年の刑を受けた服役後、無実を訴えた善則さん(01年5月死亡により母親のチリさん〈73〉=同県志布志町志布志=が再審を継承)が97年に、鹿児島地裁にえん罪を訴えて再審開始を求めた。
☆ 再審請求審で弁護側は池田典昭・九州大医学部教授の鑑定書などを提出、「首を絞めたとする確定判決の殺害方法を裏づける痕跡はなく、死因として考えられるのは頸椎(けいつい)の損傷だけで、事件当日に自転車ごと溝に転落して、頸椎を損傷した事故死の可能性がある」と主張、自白の信用性についても、共犯者とされた3人はいずれも知的障害があり、捜査当局に迎合的なうその自白をしたとして、原口さんや善則さんらの無実を訴える証言などを新証拠として提出していた。
☆ 鹿児島地裁は、00年9月9日までに、再審弁護団が提出した池田典昭・九州大教授(法医学)の「遺体に絞殺の痕跡はなく判決は認め難い」とする新鑑定書の採用と、池田教授の証人尋問を決めた。
なお、97(平成5)年7月には鹿児島地裁が、当時の鑑定人、城哲男・鹿大名誉教授を証人尋問しており、この時、城氏は「事故死の可能性がある」とし、判決が認めた「絞殺」と矛盾する証言をしている。
☆ 鹿児島地裁笹野裁判長は再審請求から約7年後の02年3月26日、「邦夫さんの死因についての新証拠によると、絞殺を示す内部所見は認められず、(確定判決が認めた)タオルによる絞殺という犯行態様は死体状況と矛盾する可能性が高い」と指摘、共犯者の自白の信用性についても、「根幹部分で変遷しており、内容そのものも不自然で不合理。捜査官らによる強制や誘導も否定できない」と疑問を投げかけ、邦夫さんを埋める際に使ったとされるスコップやフォークなど物証の証拠価値も退けたたうえで、「再審請求審で取り調べた新証拠が原審の審理中に提出されていたら、原口さんと善則さん、共犯とされた邦夫さんの兄2人を有罪と認定するには合理的な疑いが生じる」と結論付け、再審開始の決定を出した。
☆ 再審決定に際して弁護団は、「満点の決定だ」「歴史的な判断」と評価、原口さんは、「取り調べで厳しく追及し、ほかの3人の自白を迫った。3人は耐えきれなくて自白し、間違った書類が裁判に出された。警察は許せない」と話した。
☆ 鹿児島地検中島行博・次席検事は02年3月29日、「新鑑定は再審開始の要件である新証拠には当たらない」と主張、「再審開始は地検として受け入れられない」として、福岡高裁宮崎支部へ即時抗告(裁判上、迅速に確定されることが必要な決定について、期間を定めて認められる不服申し立ての方法)を申し立てた。これにより、大崎事件再審請求は福岡高裁宮崎支部に舞台を移し、再び検察側、弁護側の論戦が続くことになり、再審決定はさらに1年後(予定)に延ばされた。
検察側の即時抗告に対して原口さんは、「腹が立って仕方がない」「無実の罪を晴らすまでは死ねない」と、また、亀田徳一郎弁護団長は、「即時抗告は無実の人の苦しみを長引かせるだけ。同じ法曹として大きな憤りを感じる。厳重に抗議したい」「『1日も早く有罪、無罪を争えばいい』との趣旨で、検察には即時抗告しないよう求めてきた。検察側があえて即時抗告したのは、真剣な反省がないことの表れ」と語っている。
なお、刑事訴訟法の規定では、高裁の即時抗告への決定に対する再抗告は禁止されているものの、決定から3日以内であれば異議申し立てをすることが可能。また、抗告や異議申し立てへの高裁決定が「(1)憲法に違反している(2)憲法の解釈を誤っている(3)最高裁判例と相反している」場合に限って、最高裁への特別抗告も認められている。
☆ 04年12月9日、福岡高裁宮崎支部は確定判決の事実認定に疑いを抱かせるとは考えがたく、証拠価値は高くない」と述べ、検察の抗告を認め、鹿児島地裁の再審開始決定を破棄、再審開始を認めない決定を出した。なお、即時抗告審は証拠調べや弁論は開かれない。
☆ 最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)は、原口さんの特別抗告を棄却する決定をした。鹿児島地裁の再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却した福岡高裁宮崎支部決定が確定した(決定は1月30日付)。
亀田弁護団長は「たった6行の(決定文の)文章で三くだり半をつきつける不当な決定」と批判。「裁判所が再審を認めないのは権威を保つためだ」と語気を強めた。原口さんは「くよくよ泣いても何もならない。無実の罪を晴らすまで闘い続ける」と気丈に振る舞ったが、共犯とされ服役した元夫ら3人は既に他界している。
なお、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則は再審請求の審理にも適用される」として再審の門を広げた75年の最高裁・白鳥決定以降、重大事件で裁判所がいったん示した再審開始決定を覆す判断が最高裁で確定したのは、99年の日産サニー事件での決定以来、2件目である。