【共同不法行為に基づく損害賠償責任】
(1)会社の責任
日本政府は産業界からの強い要請を受け、国策として中国人労働者の日本国内への移入を決定し、実行に移した。実態は、欺罔(ぎもう)または脅迫により、原告らを含む中国人労働者の意思に反して強制的に連行したものだった。就労状況も劣悪かつ過酷なものであったといわざるを得ない。
強制連行・労働は被告らが共同して計画実行したものであり、被告会社は不法行為責任を負う。
(2)国の責任
明治憲法下においては、国の権力的作用について民法の適用を否定し、その損害について国が賠償責任を負わないという、いわゆる国家無答責の法理が、基本的法制度として確立していた。強制連行及び強制労働が日本国の軍隊による戦争行為という権力的作用に付随するものであることに照らせば、国が不法行為に基づく損害賠償責任を負担することはない。
【保護義務違反】
原告らは終戦直後に被告会社における労働をやめ、最終的にはいずれも終戦から数カ月以内に中国に帰還していることなどを考慮すると、十分とはいえないものの、敗戦後の混乱の中、原告らに対する一応の保護義務は果たされている。
【時効について】
被告会社の行為は前述の通り非常に悪質だ。
また外務省は、中国人労働者の日本への移入に関し、46年に被告会社などに事業場報告書の作成を命じ、これをもとに報告書を作成したが、後にその廃棄を命じた。にもかかわらず、国は54年9月以降、強制連行・労働の事実関係は資料がないため明確ではなく、中国人労働者の就労は自由な意思による雇用契約に基づくものであった旨の答弁を国会において繰り返し行った。その後、93年に外務省報告書とその関係書類の所在が初めて一般に知られるに至った。
さらに、72年の日中共同声明には中国政府が日本に対する損害賠償請求を放棄した旨の条項があり、同条項が民間人の損害賠償請求権を含むか否かについては、中国でも議論があった。
これらの事情を考慮すると、原告らが00年になって初めて訴訟を提起したこともやむを得ないというべきだ。
被告会社は原告らに賃金や十分な食事を支給したことを前提に、損失補償として国から774万5,206円を受け取っている。これは現在の貨幣価値に換算すると数十億円にも相当する。このように被告会社は、戦時中に多くの利益を得たと考えられるうえ、戦後においても利益を得ている。
本件強制連行・労働の事情を考慮すると、被告会社に対し、民法724条後段を適用してその責任を免れさせることは、正義、衡平の理念に著しく反するといわざるを得ず、その適用を制限するのが相当である。
民法724条前段の消滅時効の適用についても、同様に、原告らが損害賠償請求権の行使を怠っていたとはいえない。訴訟提起の重要な資料である外務省報告書などが被告らの関与により隠匿されていたことを考慮すると、被告会社が時効を主張することは、信義則に反し失当である。
【日中共同声明(72)及び日中平和友好条約による損害賠償請求権の放棄】
声明及び条約により中国国民固有の損害賠償請求権が中国政府によって放棄されたかについては、法的にも疑義が残されていたものといわざるを得ない。原告らの損害賠償請求権が、声明及び条約により、直ちに放棄されたものと認めることはできない。
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