言  問  橋

(ことといばし)

 

両国橋や天満橋と並んで3大ゲルバー橋(ドイツのゲルバーJ.G.Gerberが創案した、桁〈けた〉とヒンジ〈継ぎ目〉とからなる構造の橋で、支点の不同沈下の影響が少ないことから連続桁の長所といわれる)と呼ばれ、1928(昭和3)年に完成した長大な言問橋(全長:238.7メートル/全幅:22.0メートル)は、いわゆる関東大震災復興事業の一つとして新規にかけられた橋梁(きょうりょう=河川・渓谷・運河などの上に架け渡し、道路・鉄道などを通す構築物。橋)のひとつで、東京都台東区花川戸と墨田区向島の間で「水戸街道」(江戸時代、江戸から千住〈せんじゅ〉、金町〈かなまち〉、松戸〈まつど〉関所、松戸、我孫子〈あびこ〉、取手〈(とりで)、牛久〈うしく〉、土浦、石岡、小幡〈おばた〉などを経て水戸に至る街道。言問通り)が「隅田川」を渡る橋である。

 

1945(昭和20)年3月10日未明の東京大空襲の際、浅草方面から対岸の向島(むこうじま=東京都墨田区の地名。もと東京市の区名。隅田川東岸に位置し、百花園・白鬚〈しらひげ〉神社・三囲〈みめぐり〉神社・長命寺などがある)へ避難しようとする荷車(人・馬が引くなどして荷物を運搬するための車)やリヤカー(人が引いたり、自転車の後ろにつないだりして荷物運搬に用いられた車体が鉄パイプでできた2輪の荷車)をひいた人びとと、その反対側に渡ろうとする人びとがこの橋の上で交叉し、身動きがとれない状態となった。激しい炎に追われ、向こう岸に行けば助かる、と思った人々が両岸からこの橋に殺到したのである。

 

そこへ米軍のB−29が投下した焼夷弾の火が燃え移り、橋の上はたちまち大火炎に包まれ、数千人の都民が焼死した。また、熱さで川に飛び込む人の大半は溺れるか、酸素不足で死亡した。そのため、『昭和の地獄橋』とも呼ばれている。

 

両岸に近い部分の石柱は大空襲当時のままであり、黒く焼けただれた痕が残っている(空襲時の様子を今日に伝える歴史的な遺構の意味も込めて、当時の焼けただれた姿のままで残されている)

 

 

人々は手を取り合い言問橋へと逃げた。あの橋を渡れば助かる。誰もがそう希望を抱き逃げた。しかしそれは向こう岸の人々も同じだった。灼熱の炎に追い詰められた両岸の人々が一つの橋へと殺到した。やがて身動きが取れなくなり、引き返すことも、進むこともできない状態となっていた=TBSドラマシリーズ激動の昭和 10日東京大空襲 語られなかった33枚の写真(一晩で10万人もの死者を出した東京大空襲。しかしながら広島、長崎、沖縄などに比べて、報じられる機会は少ない。空襲の様子を地上から撮影した唯一の男、石川光陽を主人公としたドラマを軸に、アメリカ取材や東京大空襲の被害者の証言などのドキュメンタリー部分とあわせて、東京大空襲の知られざる真実に迫る。またドキュメンタリー部分では、筑紫哲也をナビゲーターに、当時の被害者で年老いた生存者が「これを語らずには死ねない」と惨劇を語る。08年3月10日オンエアー)の一節。

 

 

なお、言問の名称は、諸説あるが最も有名なのが在原業平ありわらのなりひら。825〜880。平安前期の歌人。六歌仙・三十六歌仙の一人。情熱的で詠嘆の強い和歌を残し、男の生涯を恋愛を中心として描く平安時代の歌物語で

ある伊勢物語の主人公とされる。美男子の代表といわれる)の歌「名にしおはば いざ言問わむ宮古鳥 我が思う人は ありやなしやと」に由来する(政争に敗れ藤原高子〈ふじわらのたかいこ。第57代陽成〈ようぜい〉天皇の母。伊勢物語で描かれた業平との恋物語は有名〉を失い、失恋と失意の中を悶々とした気持ちで東国に旅立つ時の心境を詠んだ歌)

 

 

「なお行きゆきて武蔵国と下総の国との中に、いと大きなる川あり、それを隅田川といふ。その川のほとりに群いて思ひやれば、限りなく遠くも来つるものかなとわびあえるに、渡守はや舟に乗れ、日も暮れぬと言うに、乗りて渡らんとするに、皆人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥のはしと足の赤き、しぎの大きさなる、水の上に遊びつつ、魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、皆人見知らず、渡守に問ひければ、これなん都鳥といふを聞きて、名にしおはば、いざ言問わむ 宮古鳥 わが思ふ人は ありやなしやと(伊勢物語「都鳥」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                         

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