僕が聴いた(買った/借りた)CD 解説


J・S・Bach

平均律クラヴィーア  掲示板に従い、好きな順に並べ替えました。
アンドラーシュ・シフP  輸入盤 
  シフの2回目の全曲録音。新しいだけあって、音がまずいいのがお勧めの理由。それと、陰影のつけ方も昔の録音とは違う気がする。何とというか、強弱がよりはっきり出ているように思う。なので、聞いていて何となく聞き流してしまいがちだった昔の録音とは違い、所々で「おっ」と思わせる。という意味で、トップに躍り出た。
2 エフゲニー・コロリオフP 輸入盤1  
  インヴェンション、フランス組曲、ハイドン、と買ってきて、ついにこの平均律でも彼の演奏を買うことになった。決め手となったのは、上に上げておいたサイトに、音質がすばらしいと書いてあったこと。最近、いい音の追求に凝っているので、音がいいと言われれば抵抗できない。

実際、録音がいいと思う。演奏は、粒だったごまかしのない音づくりである。これは、彼の他の演奏にも共通する。
3 グレン・グールドP 
  ピアノによるこの曲の演奏のうち、おそらくもっとも評価が高いものがこのグールドでしょう。しかし、僕には最初のプレリュードを未だ好きになれません。グールドの演奏は音を完全に切って、ポツ・ポツ・ポツと、まるで雨だれです。どうしてこんな弾き方になるのか、よくは分かりませんが、ともかくこれを聞いただけで、ちょっとつき合いかねるなーという心境になったのです。

彼の演奏は上級者向け、としておきましょう。もうその曲の隅々まで知り尽くしてしまった。5秒か10秒聞けば、何曲目のどの辺か分かる。そんなくらいに聞き込んだ後なら、きっとおもしろくてたまらないに違いありません。ですが、のっけから聴くには、手が込みすぎています。味が濃すぎるのです。
4 ピエール・アンタイC  輸入盤 
  どこかに褒めてあったので、買ってみました。「慈しみに満ちた」とまで言えるかは分かりませんが、確かに確かさ、深さは感じられます。当面、チェンバロによる定番になるだろうという評価もうなずけます。今日のところはこれくらいで。
5 フリードリヒ・グルダP  
  僕が最初にこの曲を聴いたのが、グルダの演奏でした。最初のプレリュードの、懐かしいともいえる素朴なメロディーに惹きつけられたのを覚えています。発想がかなり飛ぶかもしれませんが、NHKラジオが明け方に流しているテストパターンのメロディーをご存じだでしょううか? ひじょうに単純な構成ですが、何となく郷愁を誘うような調べです。連想として、これが浮かびました。

後で知ったところによれば、グルダという演奏家はウィーンの生まれで、その後はジャンルを超えてポップスの領域にまで手を広げたそうです。言ってみればウィーン子の茶目っ気を体現したような人らしいのです。だとすると、彼の演奏も、いわゆるクラシック界の常識を逸脱した部分があるのかもしれませんね。つまり、遊んでいる部分があるかもしれません。たしかに、ヴァルヒャのチェンバロによる演奏や、リヒテルのピアノによる演奏などを聴く限りでは、グルダの演奏には「求道者的」な側面や「思索的」な面があまりないかもしれません。もっとも、これらすべては後から分かってきたにすぎません。最初これしか知らないときには、そんな側面は全然気になりませんでした。

ポップス感覚も入れて弾いているというわけですら、入門者がはじめて聴くには取っつきやすいだろうと思います。僕自身、結果的にそうなったわけです。
6 タチアナ・ニコラーエヴァP 輸入盤
  同僚の黒田さんが彼女演奏の「フーガの技法」に凝っていて、それのMDを彼からもらって聴いたところ気に入ったので、こっちも買った。値段が比較的お手頃だった、という理由もある。

フーガの演奏で思ったのは、ともかくゆっくり、じっくりと演奏していること。それで、平均律でもそうなのかと予想したが、一部びっくりするようなテンポの曲がある以外は、それほどでもない。が、彼女で3人目にあたる、ロシアのピアニストの共通性をちょっと考えてしまった。上に挙げているリヒテル、アファナシウス、そしてこのニコラーエヴァだが、演奏から、何となく神秘的な響きを聴いてしまうあたりが似ているような気がする。まるっきりの素人考えで、当たっているか責任が持てないが、他の西欧の奏者との違いはというと、カトリック(あるいはプロテスタント)とロシア正教の違いに相当するのではないかと、そういう想像をしてみた。

話はまるっきり飛躍するが、僕の専門である第一インターナショナルの歴史において、マルクスはロシアのアナーキストであるバクーニンを徹底的に嫌った。僕はといえば、そのバクーニンの味方をした、スイスのジュラ地方の時計労働者の研究をしているわけだが…。ともかく、バクーニンとの論争の中でマルクスは、「ドイツも神秘主義の悪口を言われているが、それでもとても、バクーニンの足下にも及ばない」などの非難をしている。ロシア正教は、ヨーロッパ人にとって神秘主義の臭いがするらしいのだ。そう言えば、僕がスイスで習った先生たちも、「正教ではまだ断食が生きている」などのコメントをしていたっけ。

どちらがお好みかは、人によるだろう。僕としては、グールドよりはこっちの方がはるかに好みだとしておきたい。
7 アンドラーシュ・シフP  超廉価版
  スカイパーフェクトという、BSならぬCS放送があって僕はそれに加入している。受信できる千近いチャンネルのうち、4百番台は、100チャンネル音楽ばかり。そのうちの「クラシック・ピアノ」という局で、バッハのピアノ曲を流していることが多いが、ゴルトベルクがペライアだったのを除くと、流れてくる演奏は全部このシフだった。そういう理由から彼の演奏に興味を持ち、ソロ・ピアノの全集はないかと探して、上のものを注文したという次第。

全集は12枚からなる。その内容を紹介すると次のよう。
1:インヴェンションとシンフォニア
2・3:イギリス組曲
4・5:フランス組曲
6・7:パルティータ
8〜11:平均律
12:ゴルトベルク変奏曲スタジオ録音

こういう風に、まったく無駄がない。どれも名演奏で、2枚組で買うと3千円近くする。それが、全集で買うと1万円とちょっとというのだから、買わない手はない。と書いているのは、上からここに移動させたこれ→ バッハ・ピアノ独奏集。上に書いたものはさらにすごく、何と5千円以下で買えてしまう! いやはや、これでCD会社は大丈夫なんだろうかと思ってしまうような廉価だ。

平均律にも、イギリス組曲やフランス組曲で書いた事情が当てはまる。華麗で無難、誰でも楽しめる、が彼の演奏の特徴である。ここでまた脱線をすると、僕は最近 iPod を買ったが、それに入れたのが彼の演奏である。いつでもどこでも安心して聴けて、心が安まる演奏なのである。
8 ヴァレーリー・アファナシウスp 国内盤
  ゆっくり弾いて、ロマンチックと聞きましたので、注文しました。確かに、ゆっくりと1音1音と噛みしめるように弾いている感じがします。自分も弾く同僚のM先生の感想では、「普通演奏とは、自分なりのイメージを持ってある程度は演出、脚色をつけてするものだが、この演奏にはそうした要素がほとんど感じられない。なぜこんな演奏ができるか不思議だ」とのことでした。不思議かどうか、自分で弾かない僕には判断できませんが、ともかく素直一方の演奏であることだけは確かなようです。

ウィスキーの宣伝に「何も足さない、何も抜かない」というのがありましたがね。まさにあんな感じです。バッハをともかく素直に鑑賞したいという入門者には、多分これが一番いいでしょう。他方で、すでにかなり聞き込んでいる人には、遊びの要素が多いグルダやグールドの方が面白いかもしれません。それと、言い忘れましたが、リヒテルよりも音はいいです。これも好みですが、割とエコーの多いホールで聞いているようなリヒテルの雰囲気はあまりありません。リヒテルのように詩的にホンワカ、とはなっていません。
9 エディト・ピヒト=アクセンフェルトC 国内盤  
  彼女の演奏に惚れ込んだのは、ゴルトベルク変奏曲の演奏を聴いてでした。華麗で、しかも劇的なのです。なおかつ、派手すぎることはないのです。こういう風に、うるさくはない程度に適度に飾りが入っているものはまれです。たいていは、多すぎるか少なすぎるからです。帯に短し…が多いのです。

さて、平均律はどうかというと、期待を裏切りませんでした。ただ、特に下のアスペレンと比べると、高価なのがたまにきずです。4枚合わせると8千4百円にもなります。まだそれほど聞き込んでないと上には書いていますが、少なくとも僕は上の2人のチェンバロによる演奏よりは、彼女の演奏の方がはるかに好きです。知名度では全然比較になりませんが…
10 ボブ・ファン・アスペレンC 輸入盤
  上の1のサイトに、彼の演奏がべた褒めしてあるので買う気になりました。値段も、4枚で3千円以下と超お買い得です。ですが、演奏はたしかに安物では決してありません。上のピヒトと双璧をなすと、僕は思っています。この二人の演奏を比べると、ピヒトの方が劇的で、アスペレンの方が地味かもしれません。ですが、両方とも好ましい演奏です。この両者の演奏を比べているとき、僕がどうしたかというと、こんな風でした。

1枚目の最初の、上で触れたプレリュードからかけていきます。特に気に入ったメロディーが出ると、相手はどう弾いているか好奇心に駆られてCDを入れ替えて同じ箇所を聴いてみます。その後は、そのままそれを聞き続けます。で、また別の気に入った箇所が出ると、別のと入れ替えて聴いてみる…。こうして、一々聞き比べてもなお、どっちがいいか僕には決められません。1曲1曲を取れば言えなくもないのですが、さすがにそれはやりすぎでしょう(笑)。
11 ルイ・ティリー(オルガン) 輸入盤 
  先ほど届いたばかりのピッカピカです。今かけていて、その場で紹介したくなるくらいに気に入りました。平均律は、チェンバロかピアノが定番なのですが、これはオルガンでの演奏です。そのため、色々な発見があります。最初のプレリュードなど、「おおっ!」というくらいある意味衝撃的でした。まだ1枚目です。この先も色々楽しませてくれるだろうと、期待できます。
12 ダニエル・バレンボイムP 輸入盤  
  評判につられて、指揮者としても有名な彼の演奏を買う気になった。ただ、届くのは2ヵ月も先の話らしく、しばしお待ちを!
13 ヘルムート・ヴァルヒャC 国内盤
  大御所なので買いましたが、まだ十分聞き込んでいません。 
14 グスタフ・レオンハルトC 
  上に同じです。
15 スヴャトスラフ・リヒテルP 
  彼の演奏は、長い間(あるいは今でも)、上のグールドと並ぶ決定版とされてきたようです。そのことは、僕も知ってはいました。しかし、音響的な理由から、最初は買うのをためらっていました。どういうことかというと、音がこもっており、明瞭ではないのです。まるで曇りガラス越しに見ているようで、音像がはっきりしないのです。こうした理由から、彼の演奏はオーディオ・マニアには受けないだろうと思います。とはいえ、そんな問題点をカバーできてしまうほど素晴らしい装置の持ち主なら、違うかもしれませんが…。

こうした事情があるにもかかわらず、やっぱり買ってみようと思わせたのは、輸入盤の値段の安さでした。何と、国内版で買ったグールドの1/3の安さなのです! これなら、ダメもとだと買う気になりました。

さて、そのCDが手許に届いてみると、まあまあ聴いてます。しかし、音がにじんでいるのはやっぱり気に入りません。せいぜい、音像の不明確さは一種の抽象性の現れなのだ、とでも解釈をするほかありません。

というわけで、はなはだ失礼ながら、好みの順位からして最下位にさせていただきました。