The Story of the Goblins who Stole a Sexton
「墓掘り男をさらったゴブリンの話」
――ゴブリンから『クリスマス・キャロル』へ――


(※ これは1999年8月23日に、山口大学医療技術短大部で行う公開講座のために作ったページです [17 Jun '99])
イギリスの文豪、チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)の作品の中で、日本で最も知られているのは、『クリスマス・キャロル』(A Christmas Carol, 1843)であろう。守銭奴の老人スクルージ(Scrooge)を主人公に、当時のイギリス政府を批判しながら、他人を思いやる気持ちの大切さを歌い、クリスマスの祝祭気分を巧みに盛り上げるこの小説は、映画やミュージカルとしても広く親しまれているが、これとよく似たストーリーの短篇小説をディケンズは1837年頃に描いていた。それが「墓掘り男をさらったゴブリンの話」である。
* * * * * * * * * *  参考資料  * * * * * * * * * *
"The Story of the Goblins who Stole a Sexton"
この短篇はディケンズ初期の代表作『ピクウィック・クラブ』(The Pickwick Papers [Harmondsworth, Middlesex, England: Penguin Books])第29章に、クリスマス・パーティーの席で披露された話として挿入されています。『ピクウィック・クラブ』の翻訳は、北村悌二訳、ちくま文庫(1990)[全三冊]があります。

ディケンズの短篇集 Selected Short Fiction (Harmondsworth, Middlesex, England: Penguin Books, 1976) 39-49 にも収められていて、公開講座のテキストはこちらを使用します。また、邦訳したディケンズの短篇を集めたものに、小池滋、石塚裕子訳『ディケンズ短篇集』(岩波文庫、1986)があります。
A Christmas Carol
原書で入手しやすいのは、Christmas Books vol.1 (Harmondsworth, Middlesex, England: Penguin Books, 1971)でしょう。邦訳は、『クリスマス・カロル』森田草平訳、岩波文庫(1929)/村岡花子訳、新潮文庫(1952)があります。ちくま文庫の『クリスマス・ブックス』(1991)には、小池滋先生の落語調の訳が収められています。

『クリスマス・キャロル』のイラストと言えば、ジョン・リーチのものが有名ですが、グリム童話等の挿絵で有名なリスベス・ツヴェルガーのものもあります。(A Christmas Carol [London: Picture Book Studio, 1988])

詩や小説の一節を朗読するのをイギリス人はとても大切に考えていますが、ダニエル・メッシー(Daniel Massey)の『クリスマス・キャロル』朗読テープ(London: Argo)は、傑作の一つだと思われます。
『クリスマス・キャロル』 フィロモグラフィー
この小説は、20世紀の始めから何度も映画化されています。以下は、私が観たもののリストです。日本語の字幕スーパー入りで、販売・レンタルされている(のを私が確認した)ものは、原題(英語)の後に邦題を挙げています。

Scrooge(『クリスマス・キャロル』)(ロナルド・ニーム監督、アルバート・フィニー主演、1970年、ミュージカル版)

A Christmas Carol (1971年、アカデミー賞受賞アニメ)

Scrooged (『3人のゴースト』)(ビル・マーレイ主演、1988年。設定を現代に置き換えたパロディー。原題 Scrooged の"-ed"が気になります。なお、原作の主人公の名前である "scrooge" は、現在「守銭奴、ケチ」の意の普通名詞として用いられています。)

A Christmas Carol (ジョージ・C・スコット主演、クライヴ・ドナー監督、1984)

1946年に制作された映画『素晴らしき哉、人生!』は、『クリスマス・キャロル』や、ディケンズが『クリスマス・キャロル』を踏襲して描いた『鐘の音』(The Chimes, 1944. ちくま文庫『クリスマス・ブックス』(1991)に松村昌家先生の訳が収録されています)を下敷きにしていると考えられます。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

[矢次綾のホームページへ]